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小学1年生の秋、算数の授業で「さくらんぼ計算」が始まると、急につまずき算数に苦手意識を持ち始める子どもが少なくありません。「なぜうちの子は計算でつまずくのだろう?」と頭を悩ませる保護者の方も多いのではないでしょうか。しかし、百ます計算や十ます計算を素早くこなせるような高い計算力を持った子であっても、さくらんぼ計算には戸惑ってしまうという「珍現象」が実際に起きています。なぜ、計算が得意なはずの子どもがさくらんぼ計算にひっかかってしまうのでしょうか。
百ますたし算やひき算を2分以内に解き終えるような優れた計算力を持つ子どもであっても、さくらんぼ計算になると「できない」「わからない」と壁にぶつかるケースが多発しています。
さくらんぼ計算とは、1年生の秋に登場する、10をひとかたまりにしてくり上がり・くり下がりを考える学習法です。10を作るために数字をさくらんぼのように2つに分けることからそう呼ばれていますが、この計算方法は小学1年生にとって極めて高度な論理的処理を要求します。
具体的に「3+8」という計算(例:3+8=7と1)
さくらんぼ計算で解く場合、子どもは以下のような複雑なステップを踏まなければなりません。
「8」を10にするために、あと「2」が必要だと考える
↓
「3」から「2」を取るために「3」を「2」と「1」に分解する(くり下がらないひき算を行う)
↓
「8」と「2」をたして「10」を作る
↓
最後に残った「1」と「10」をたして「11」という答えを導き出す
このように、さくらんぼ計算を解くには次の2つの厳しい条件を同時に満たす必要があります。
① 論理を二段階で理解できること
② くり下がらない引き算を瞬時にできること
1年生の子どもにとって、これら2点をクリアしながら「なぜそうなるのか」という理屈を理解することは非常に困難です。陰山英男先生も、さくらんぼ計算の難しさについて次のように述べています。
「さくらんぼ計算は1年生にとって大変難しくみんなつまずくものです」
大人は「まずはくり上がりの理屈や思考力を身につけさせなければならない」と考えがちです。しかし、思考力が十分に育っていない発達段階の1年生に対して理屈の理解を急いで求めてしまうことこそが、さくらんぼ計算の問題の根源であり、子どものつまずきを引き起こす大きな要因となっています。
発達の関係上、低学年の時期は論理的な「思考力」を高めることがなかなかできません。その一方で、子どもたちは大人以上に優れた「暗記力」を持っています。好きなアニメのキャラクターや電車の種類などを、数え切れないほど完璧に記憶できるのがこの時期の子どもの特性です。
したがって、さくらんぼ計算のように「なぜそうなるのか」という理由の理解を無理に強いる必要はありません。低学年ならではの優れた暗記力を武器にして、計算もキャラクターの名前と同じように「問題と答えを丸暗記させてしまいましょう」というのが陰山流のアプローチです。
実際、百ます計算を2分以内でクリアする子どもたちは、この丸暗記を武器にして瞬時に答えを導き出しています。まずは「わかる!」「できる!」という達成感を得ることが何より大切です。
さらに、この優れた暗記力は算数だけに留まりません。たし算・ひき算や九九はもちろんのこと、子どもが興味を持つようであれば、都道府県やことわざなども遊びの中で楽しみながらふれさせておくことで、暗記力をさらに伸ばしていくことができます。
「理屈を理解させなくて大丈夫か」と焦る必要はありません。理解する力(思考力)や応用活用する力は、中学年以降になれば自然と伸びていきます。低学年のうちに暗記力を高めておくと、中学年以降に知識を瞬時に思い出すことができ、教科書にとらわれない自立的な学習へとつながっていきます。
1年生にとって「理解する」ということ自体がとても難しいため、低学年の優れた暗記力を活かして計算も問題と答えを丸暗記させてしまいましょう
さくらんぼ計算での苦手意識を払拭し、繰り上がりを無理なくマスターさせるために、陰山流では驚くほど合理的でシンプルな指導ステップを提示しています。
陰山流・計算指導のステップ
ステップ1
「9+2」から始める 指導の出発点は、一番簡単で計算の仕組みが見えやすい「9+2」です(最終的にできるようになることを前提として組み立てます)。感覚的に答える子どもに対しては理由を聞き、別の説明を求めます。
ステップ 2
「+8」へ進み「十ます計算」を徹底反復する 「9の繰り上がり」の答えに見通しが見えたら、翌日は「+8」を行います。同じ理屈を適用することで習得が加速し、思考力が高まり確実な定着につながるため、ここから十ます計算の徹底反復へと移行します。
実践ポイント
「+0」および「+1」からの十ます計算を取り入れる十ます計算は“+0からはじめて繰り上がりが身につく”優れた教材です。実際の指導現場(学級担任時など)では、1学期中に「+1からの十ます計算」を導入するのが効果的です。順番に習得させると子どもは式と答えをセットで同時に覚えていくため、繰り上がりを意識することなく自然と計算力を習得できます。さくらんぼ計算という特定の形式や解き方にこだわりすぎる必要はありません。十ます計算を上手に活用することで、子どもは途中で悩むことなく、算数の苦手意識をきれいに解消することができます。
小学1年生の算数において最も重要なのは、発達途上にある「思考力」や「理屈の理解」を強要することではありません。低学年期に突出している「暗記力」を最大限に活かし、問題と答えを丸暗記させることで「解ける!」という達成感を味わわせることが、算数嫌いを防ぐ一番の近道です。理解力や応用力は中学年以降になれば自然とついてくるため、焦る必要は一切ありません。
子どもの学習を見守る際「なぜそうなるのか理解させよう」と躍起になるあまり、子どもが持っている素晴らしい暗記力や「答えがわかる楽しさ」を見落としていませんか?今日から指導の視点を少し変えて、子どもの得意な力を活かした学習をサポートしてあげましょう。


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